建て替え?それとも補強?

耐震補強の投資効果を考える

耐震補強(改修)にかかるコストは、前のページ(耐震補強のコスト)で示すとおり、決して安いものではありません。企業にとっては大きな投資となります。

ROIで考える

ROI(Return On Investment:投下資本利益率)という指標で耐震補強を考えると、なかなか説明がつきません。
なぜなら、耐震補強によって使用できる床面積が増えたり、光熱費が削減されたりするわけではないため、明確なリターンを見込めないためです。
これは、融資という部分にも影響を与えます。中小企業の場合、耐震補強を行いたいが融資が下りないという状況も多いようです。
そのため、国の融資制度や、債務保証制度(耐震補強支援センターによる)が設けられています。

耐震補強にかかるコストは、利益ではなく、リスクで評価するのが一般的です。

PMLで考える(地震のリスクを評価する)

地震災害による被害を最小限に抑えるにはどうしたらよいか。これが地震対策の基本です。
「地震の被害」と一口にいっても、建物の倒壊・損傷といった物理的被害だけではありません。その物理的被害から立ち直る期間に生ずる経済的な逸失利益まで地震の被害と考えられます。

しかし、そもそもどんな規模の地震を想定するかによって、被害も変わるはずです。なおかつ、いつその地震が起きるのか、わからないのです。

そこで考え出された評価指標が「地震PML」です。
PML(Probable Maximum Loss:予想最大損失率)は、元来保険業界で火災保険情報として使われてきた指標ですが、地震保険などの巨大災害のリスク評価でも用いられるようになった概念です。

少々乱暴な例で地震PMLを計算すると、

  • 1.立て直すと10億円かかる建物が、
  • 2.その場所で予測される、500年に1度くらいの巨大地震に見舞われたとき、
  • 3.元の状態に直すための費用が4億円かかるなら、
    PMLは(4億円/10億円)×100=40%

となります。

PMLは、建物の資産価値を評価する上でも重要です。
不動産の証券化や不動産投資信託(J-RIET)などにより、不動産の流動化が進む中、建物の資産価値を評価する手法が確立されてきました。
その中で、PMLは非常に重要な評価尺度となっています。

つまり、PMLが高くなると、不動産の価値や格付けが下がってしまうのです。

耐震補強により、PMLを適正レベルに抑えることが可能となります。

耐震補強の費用をPMLで考えることにより、不動産価値を上げるという効果が数字として見えてくるのです。

BCPから考える

PMLにより評価されるのは、不動産としての価値です。
上記の計算例3の4億円は、建物の補修費(構造体・仕上・設備等を含む)です。

地震による4億円のダメージを補修するのに、一体どのくらいの時間がかかるでしょうか。その間、建物は使えるでしょうか。

もしその建物が製品工場だった場合、ラインがストップするでしょう。店舗だった場合、はたして営業できるでしょうか。

PMLには、そういった逸失利益の評価は含まれていません。

BCP(BusinessContinuityPlan)は、「災害に強い企業」を目指し、災害時にできるだけ業務を継続するために、「いざというときの手順」をまとめた「事業継続計画」です。

BCPの策定は、

  • 1.事業に著しいダメージを与える災害や事故を想定し、
  • 2.止まってしまうと企業の根幹を揺るがすような重要業務を絞り込み、
  • 3.その業務は一体何時間(何日)停止しても持ちこたえられるのか、復旧にはどのくらい時間がかかるのか・・・・

といった検討から始まります。

内閣府は、「事業継続ガイドライン」の中で、1.で対象とする災害としてまずは「地震」を想定リスクとすることを推奨しています。

極端な例ですが、店舗を全て免震化したとしたらどうでしょう。
什器備品のみならず、商品までもがほとんど無傷かもしれません。ライフラインが復旧すれば、何事もなかったかのように営業を再開できるかもしれません。

BCPと耐震性能は深い関わりがあります。

耐震補強により、目標とする復旧時間を、より短く設定することができると考えられます。

そして、その時間短縮による損失の回避が、耐震補強の投資効果と考えることができます。

CSRから考える

CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)としての耐震補強という観点は、まだ一般的ではありませんが、地域社会とのかかわりという点で考えてみたいと思います。

兵庫県南部地震では、地震による死亡者の8割以上が建物の倒壊によるものでした。そして倒壊した建物は、道路上に瓦礫となって降り注ぎ、場合によっては道路を閉塞させてしまうこともありました。
倒壊した建物は、直接的に人命を奪ってしまっただけではなく、直後の消火活動や救命活動、人々の避難や救援物資の輸送を困難にしてしまったのです。

耐震改修促進法を見ても、対策に特に力を入れる特定建築物(多数の人が利用する建物)の定義のひとつとして、緊急輸送路などの重要な道路を閉塞させてしまう恐れのある建物が上げられています。

建物の耐震性能は地域の安全に関わる問題なのです。

耐震偽装問題をきっかけに、建物の耐震性能に対する市民の意識は変わってきています。
数年前まで、学校の先生が自分の学校が耐震化されているのか全く知らないという状況もあったようですが、静岡県など進んでいる自治体では建物の耐震性能を公開し、さらには入口にラベル表示まで始めています。

改正耐震改修促進法を読んでも、国は建物の耐震性能を公開していくという方向に舵を切っているようです。

そういった流れが進んでくると、企業もその社会的責任として、所有する建物の耐震性能を公表することが求められてくるのではないでしょうか。

その時、御社の建物が「姉歯級」だったとしたら・・・・

補強か、それとも建て替えか

耐震補強の投資効果は、PMLの低下による資産価値の向上、BCP策定と合わせた逸失利益の低減、CSRとしての耐震性能公開、差別化→集客能力アップによるROI向上、といった多面的要素から判断すべきと考えます。

その上で建て替えという究極の耐震化の投資効果と比較してみてはいかがでしょう。

耐震補強の投資効果は多面的に判断